衒学遊戯舎

衒学遊戯舎

野狐禅問答

ゲームデザインを知りたくば、このYouTubeチャンネルを見よ

ビデオゲームの仕組みを知るとゲームを深く遊べるという話。
記事の性質上、動画リンクが多いので多分重い。


ビデオゲームの面白さを分析することはビデオゲームを遊ぶのと同じくらい楽しい。ゲームデザインをはじめとしたビデオゲームの仕組みを把握するメリットは、より面白くゲームを遊ぶ事が出来るという部分だろう。

ゲームの仕掛けを知っておくと、それが「なぜ面白いのか」を考えながら楽しめる。逆に面白くないと感じた作品を「なぜ自分に合わなかったのか」を分析しながら次に選ぶ作品の指標を立てやすくもなる。作品の背景を知っておくとその作品をより深く楽しむことが出来る。そしてその背景とは「開発秘話の面白エピソード」だけでなく「そう設計するに至った意図」の把握まで遡る事が出来ると更に楽しい。ゲームプレイを通して感想として完結する前に理屈や理由で繋ぎ止める癖を付ける事で、より深く分析出来て、自分がどのような作品傾向を好んでいるのかの自身への分析にも繋がるのだ。

ゲームデザインというのはビデオゲームにおける力学である。これを知ることで面白さの原因を把握しやすくなる。つまりゲームデザインを知っておくことは、より良く(或いは余計なことを考えながら)ゲームを味わうことが出来るわけだ。ゲームデザイナーになるためでなく、より良く遊ぶ上でゲームデザインを学ぶことを提案したいのが本記事の最終目標である。

本記事ではそういった力学についての原理原則を把握する切っ掛けとなる動画チャンネルを紹介するものとなっている。

紹介するチャンネルは以下の通りだ。

目次

方針としてはゲームを遊ぶ上で影響を与える要素を解説しているものをゲームデザイン解説とざっくばらんにピックアップしている。また紹介しているチャンネルの数が多いため各チャンネルの紹介も割と簡潔に終わってしまっている点はご容赦願いたい。

ちなみに各チャンネルの紹介としてだいたい3-6本ほど動画をピックアップしているのだが、どのチャンネルも厳選が極めて難しかったしそれでも尚紹介し足りていない実感がある。なので、気になった分野のチャンネルがあったなら登録したうえで全部視聴して欲しい。

なおタイトルではゲームデザインと書いてしまってるが、割とアバウトな範囲でチャンネルを紹介している。本来なら細かい定義を付けたうえで紹介を展開していくのだろうけど許してちょんまげ。流れとしてはまず俯瞰的なゲームデザインの解説を行ってるチャンネルの紹介を中心に、後半に行けば行くほど感覚の言語化やキャラモーションやBGM作りとかそういった個別の要素についての分析を行っているチャンネルの紹介といった傾向になっている。

前置きはこれくらいにしてチャンネルの紹介に移っていく。

Game Maker's Toolkit

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基本にして究極のゲームデザイン解説チャンネル。まず本チャンネルの動画を一通り観れば「ゲームの遊びをデザインする」とはどういったことなのか知ることが出来るだろう。

本作の特徴といえば、何よりその解説の組み立てから動画造りの判り易さ、テーマの選定など非常に丁寧に作られている部分で、動画講座として極めて上質なチャンネルに仕上がっている。加えてほぼすべてに英語字幕と有志による日本語字幕が高確率で入っているので気軽に視聴可能だ。

動画単体で完結してる講座に加え、常に何かしらの興味深いテーマを基にシリーズ企画しているのも魅力のひとつだ。例を挙げると特定のゲームシリーズに着目しレベルデザインやステージ構造などを分析している「Boss Keys」シリーズ、ステルスゲームを構築しているプレイヤー機能や敵NPCの視聴覚やゲームシーケンスなどをを切り分けて分析する「School of Stealth」、ゲームの歴史を紐解く上での特異点となっているタイトルを取り上げていく「Design Icons」など、そのシリーズも多岐にわたっている。

どれも引用している参考文献は確度の高い物ばかりだし、ここ最近は開発者に直接インタビューを行う形式でのデザイン分析を行っている動画も増えてきており隙が無い。YouTubeゲームデザインとは何を行っているのか、面白さの正体とは何なのかを知りたいならば、まずは本チャンネルを視聴することを強くお勧めしたい。

>>The Secret of Mario's Jump (and other Versatile Verbs)
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>>How to Keep Players Engaged (Without Being Evil)
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>>The Two Types of Random in Game Design
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>>Legend of Zelda: Breath of the Wild - An Open World Adventure | Game Maker's Toolkit
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>>How Stealth Game Guards See and Hear | School of Stealth Part 1
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>>Who Gets to be Awesome in Games?
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>>Super Mario 3D World's 4 Step Level Design | Platformer Level Design
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>>What We Can Learn From DOOM
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>>Should Game Designers Listen to Negative Feedback?
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>>Do We Need a Soulslike Genre?
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>>Are Lives Outdated Game Design?
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Design Doc

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ビデオゲームにおけるユーザーインターフェースを中心としたデザインワークについて取り扱ってるのが、本チャンネル「Design Doc」である。

ここで言うインターフェースとは表面的な計器類だけでなく、操作におけるキーアサイン、インタラクトする敵デザインや自キャラのデザイン、アイテムの造形、そしてゲーム全体のシーケンス設計も含まれる。極端な話「ゲームを快適に遊ぶ上で必要な要素」全体を指す単語として認識してもらって良いだろう。というかゲーム画面上に表示されるものはすべてインターフェースとみて良い。

本チャンネルを視聴することで、良いデザイン改善すべきデザインとは何かを学ぶことが可能で、さらに無意識のうちに自身の中にも構築されてしまっているゲーム上の表現言語についても分析や再度の定義を行うことが出来る。*1

つまり、遊びにくいゲームに憤る際も具体的に原因を知り憤ることが出来、遊び易いゲームに没頭する際なぜそこまで喉越しがが良いのかを思索する為の「一旦立ち止まって考える思考スキーム」を構築する際に本チャンネルの動画の視聴は極めて強い武器になる。

またインターフェースやデザイン方面以外のゲームデザイン解説動画の傾向として、RPG作品を中心としたシステムデザインの解説も行っている。積み重ねによる達成感の分類や収集要素の分析、ダンジョン構造や状態遷移の表現の考察などだ。

>>Good Design, Bad Design Vol. 7 - The Best and Worst of Graphic and UI Design in Games ~ Design Doc
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>>Good Design, Bad Design X - More of the Best and Worst Graphic Design in Games
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>>Good Design, Bad Design Vol. 12 - Video Game Graphic Design at its Best and Worst
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>>Inventory UX Design - How Zelda, Resident Evil, and Doom Make Great Game Menu UX
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>>How Do You Design a Cast of Enemies? ~ Design Doc
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>>What Makes a Good Level Up System? ~ Design Doc
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Razbuten

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ゲームデザイン全般について分析しているチャンネル。

本チャンネルの代表トピックは動画シリーズ「Gaming For A Non-Gamer」だろう。これはとある「ゲーム経験が殆ど全く無い被験者」に様々なゲームを遊ばせることで、その反応や行動を収録し分析を行う企画だ。これは所謂「プロトコル分析」と呼ばれる手法をビデオゲームに対して実践し公開しているのだが、一般的に行われてる「意図的に発話を促す観察手法=シンク・アラウド法」のそれでなく「思わず出てくる反応」を中心に分析している本来の意味に近い方法としてのプロトコル分析を行っており、その点においても極めて貴重な動画となっている。

様々なジャンルのゲームの代表例を遊ばせることで、それぞれのジャンルのペーシングやゲーム言語やドット絵などの表現手法が、普段そういったジャンルに慣れてない人からどう映るのかの一例として極めて貴重な資料となっている。そして普段ビデオゲームと呼ばれるそれらが「ゲームというカテゴリ内で必須前提知識をどれだけ構築しきってしまっているのか」を知る手掛かりにもなっているのだ。

特にその中の動画のひとつ「非ゲーマーがBreath of the Wild を遊ぶとどうなるのか?」では、3Dゲームにおけるカメラシステムが非ゲームプレイヤーにとってどれだけ更なる障壁になるか、そして任天堂がどれだけ対処しようとしているのかの一端を知ることも出来、加えて未だに存在する視点の反転操作の心理についても推測を行っているなど、一度は見ておくべき様々な発見がある動画に仕上がっている。

ただ一方で普段の動画シリーズは、聊か強めの十把一絡げな否定から入る類の動画が目立つので、そちらについてはあくまで意見のひとつとして視聴するのが良いだろう。言わんとすることは一応一理あるのだが、いささかノイズになってしまってるので、気持ち新しめの動画を中心に視聴するのが良い。


>>What Games Are Like For Someone Who Doesn't Play Games
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>>What Breath Of The Wild Is Like For Someone Who Doesn't Play Games
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>>What Casual Games Are Like For Someone Who Doesn't Play Games
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>>What Virtual Reality Is Like For Someone Who Doesn't Play Games
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>>The Color of Corruption - How Purple Is Used in Video Games
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>>Creating a Likable Video Game Villain
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>>How Small Open-World Games Feel Big
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AI and Games

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「AI and Games」はその名の通り、ビデオゲームにおける人工知能の解説を専門とした解説チャンネルだ。

メインは各タイトルに着目しそこで実装されてるAIシステムについての概要と運用方法についての解説となる。加えてAIシステムを実装するうえでの前提知識となる解説も豊富で、ナビゲーションメッシュやFSM、行動ツリーといった基本的なAIの設計コンセプトについての解説も丁寧に行われている。ビデオゲームにおけるAIついて基礎理論からも理解を深めることが出来るチャンネルとなっているのだ。

実装例についての対象となるタイトルも多岐に渡っており、「エイリアン側には基本的な行動ツリーを実装しつつ、フィールドAIを用いてプレイヤー位置のヒントを与える二段構えのAIによって「狡猾な賢さ」をゼノモーフに付与させることに成功した『Alien: Isolation』」「道路の種類や接続による都市設計のモデル化から区画の人口と対応させることで渋滞が発生するかどうかを判別させている『Cities: Skylines』」「単純な行動ツリーでは賄いきれないキャラクター数に対応する為、タスク側からNPCに働きかけることで各グループへ行動方針を決定させ大規模戦闘を破たんさせることなく実装に成功した『HALO3』」といった具合に、ゲーム作品毎にどのようにAIやスクリプトが実装されてるのか、詳しくかつ判りやすく解説されている。

ビデオゲームの歴史とはAIの歴史でもある。シングルプレイのゲームだけでなくマルチプレイでもそのサポートに使われているのはもはや標準だし、加えてNPCなどの個体をもつキャラクターだけでなくその世界全体を制御するシステムとしても採用される。本チャンネルではそういったエレガントに組み込まれているAIシステムの解説を行っているのだ。

>>The AI of Alien: Isolation | AI and Games
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>>How Halo 3 Builds Large-Scale AI Battles | AI and Games
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>>The AI of Half-Life: Finite State Machines | AI 101
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>>How Forza's Drivatar Actually Works | AI and Games
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ちなみに各種動画の原文自体の幾つかは公式や寄稿といった形式でテキストでも読むことが出来るので、そちら経由で内容を把握するのも良いだろう。

>>AI and Games
www.aiandgames.com
>>Tommy Thompson – Medium
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Adam Millard - The Architect of Games

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レベルデザイン全般を分析しているチャンネル。傾向としてはゲーム『言語』や『定義』、作品が与えた影響等の『概念』を整理する類の分析が多い。

この「概念や定義を改めて考えみる」という切り口は、ゲームの面白さを知る上で地味に重要な要素だ。

自分が実際に遊ぶ際に感じた「面白さ」や「つまらなさ」の原因を自発的に掘り下げる際の足掛かりになる。特に本チャンネルで行っているような「問題点の洗い出し」「細分化されたジャンルの再確認」「特定のシリーズの作品毎のレベルデザイン傾向」「バズワード化している単語の分析」「ゲームプレイに際する手続きの確認」等といった掘り下げは、「面白さの核」或いは「鈍い手ごたえの原因」を分析するうえで確実に手掛かりとして機能するだろう。

動画のつくりとしてはきわめてシンプルで参考映像と簡易な字幕や図示に留まっており、他のチャンネルに比べて手作り感が強いが動画としての視聴のしやすさはしっかりと作られているので何ら問題はないだろう。

また基本的に英語字幕が実装されているので、リスニングに不安があっても原文を参照しつつ翻訳機能を駆使して意味を照らし合わせれば大抵は難なく内容の把握ができる。


>>Are Morality Systems Making Us Less Moral?
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>>What Does "Immersion" Actually Mean?
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>>How Great Games Beat The Grind*2
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>>6 Lessons from Hollow Knight's immersive tutorial
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>>Why Are Explosive Barrels Always Red?
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>>How Satisfactory Makes Work Fun
[https://www.youtube.com/watch?v=pO9HPW5uqBg
>>The Anatomy of a Bossfight
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>>Do Interesting Decisions Create Interesting Games? Breaking Down Sid Meier
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>>How To Make RPG Combat More Interesting
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>>What Is a System? And How Did They Save Zelda?
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Jacob Geller

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「感情」や「感覚」といった概念的な要素の言語化に注力した分析チャンネル。エッセイ寄りの傾向が強い。

エンターテイメント作品に「機能としての意味合い」を求めるならば、それは「あらゆる手段を用いて感情を抱かせるツール」であり、ビデオゲームも例外ではない。

そういったビデオゲームにおいて「具体的にどういった要素が感情を喚起させるのか?」をシステムを包み込むアートワークや或いはその表現方法やそこから生じる侘び寂、つまり「美学としてのビデオゲーム」を分析しているのがこのチャンネルである。風景を眺めて和歌を詠むように、本チャンネルではゲームを遊んでその情景を掘り下げている。感情の言語化は感想を綴る上でも特に欲しい技能だ。

本チャンネルを視聴することでゲームにおける「感情が動く」とはどういった事なのか、その一端を識ることが出来るだろう。


>>Artificial Loneliness
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>>APE OUT and FREEDOM
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>>The Quiet Sadness of Mario Galaxy
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>>The Intimacy of Everyday Objects
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>>Fear of Depths
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eurothug4000

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同じく随想形式にて、ゲームにおける体験や感情について分析しているチャンネル。

先のチャンネルが傾向として動画毎に「テーマとする作品を取り上げて分析」していたのに対し、こちらでは加えて「特定のテーマに対して複数の例を提示する形式」も多く取り入れららている。

最近の動画になればなるほど字幕率が上がっているので幾つか容易に視聴できる動画もあるだろう。現状は動画数自体はまだそこまで多いわけではないが、投稿頻度は頻繁で今後が楽しみな動画チャンネルのひとつだ。

>>A Virtual Place to Call Home
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>>Size Matters - Exploring Scale in Games
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>>The Extraordinary Ordinary - Exploring Life Simulators
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Snoman Gaming

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仕組みに着目したゲームデザインのレビューを行っているのが本チャンネル「Snoman Gaming」だ。

普段行われているゲームレビューというのは「パッケージとして成立具合」といった品質が重視されるものだが、本チャンネルはそういった全体を通した品質ではなく「システム」や「ギミック」等のゲームデザインやつくりの良し悪しに着目しレビューを行っている。つまりゲームにおけるシステムデザインの観点からその作品がどのような仕上がりになってるのかを分析しているのだ。こういった「レビューの観点がゲームシステムありきである」というのは極めて貴重だ。

また特定システムに着目して分析を掘り下げているシリーズ「Good/Bad Game Design」の派生として作られているシステム掘り下げ関係のエピソードは上げられてるサンプルのチョイス含めてどれも切り口が面白い。

>>Good Game Design - Movement
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>>Good Game Design - Music & Sound
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>>Bad Game Design - Clicker Games
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>>You Need To Play Dicey Dungeons
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Core-A Gaming

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「Core-A Gaming」は対戦格闘ゲームのシステムデザイン分析を中心とした解説チャンネルだ。

解説としてはシステムの分析、レベルデザインの方針の分類、ブレイクスルーを起こした仕様の話、プレイヤー行動の心理学的分析、上達プロセスの考察、興行シーンとしての格闘ゲーム、現実のスポーツシーンとビデオゲームの調整の対比分析、入力デバイスの変遷や傾向など対戦格闘ゲームに関連するトピックの分析や考察を極めて広い範囲で行っている。本チャンネルの視聴を通して、対戦格闘ゲームと呼ばれるジャンルがビデオゲームの中でも特に面白い進化を果たした分野であることを改めて知ることが出来るだろう。

数が限られるゲームデザイン解説チャンネル系の中でも、格闘ゲームに焦点を合わせて深く掘り下げや分析が行われている本チャンネルの存在は極めて珍しいうえ、分析が(数値やテクニックの機械的な解説に終始しているわけでなく)網羅的に行われている点において特に貴重なチャンネルだ。

>>Analysis: Why We Should Buff More Than Nerf
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>>Analysis: How the Hadouken Reinvented 2D Fighting
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>>Analysis: Why Fighting Games Are Hard
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>>Analysis: Taunting and Mind Games
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>>Analysis: Getting Better at Fighting Games
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>>Analysis: How to Pick a Character
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>>Analysis: The Consequences of Reducing the Skill Gap
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>>Analysis: Why Button Mashing Doesn't Work
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Game Score Fanfare

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ビデオゲームにおけるBGMについて、「曲の使い方」「サウンドの実装の仕方」を中心とした分析を行っているチャンネル。本チャンネルの良いところは、インタラクティブな要素としてのビデオゲームサウンドデザインについて解説しているところだ。

ビデオゲームの音作りほど、遊んでいる間のプレイ感情に知らずのうちに影響を与えている物も無いだろう。目に見えるわけでなしサントラ単体で聞いていてもインタラクティブでないと、どう効果的に活用してるのか気付かないし気付かせないように作られている。そういった影の主役がゲーム音楽だ。本チャンネルではそういったサウンドデザインについて様々なアプローチからの分析を行っている。

「水中BGM」はどのように進化したのか?初代「ブレイブリーデフォルト」の各キャラクターのテーマはどのように作られ活用されていったのか。その流れを汲んでいるオクトパストラベラーの曲作りと運用の妙*3。などといったサウンドギミック、つまりビデオゲームにおいてBGMはどのように実装されているのかを解説しているのが本チャンネルというわけだ。

>>How Going Underwater Changed Game Music
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>>Bravely Default's Empowering Music
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>>Octopath Traveler: Reimagining Game Music
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>>How Octopath Traveler Hypes its Boss Battles
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>>Scoring Ori's Ginso Tree Escape
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8-bit Music Theory

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先のチャンネルがゲームのサウンドデザインについて実装を解説していたのに対して、こちらはビデオゲームにおけるサウンドについてコード進行やリズムコード等といった「曲のつくり」を中心とした分析を行っているチャンネルである。

例えば「印象深い出だし(Iconic Opening Intervals)からメインテーマを分析する」「ウィンドガーデンはなぜ曲として完成度が高いと言えるのか?」「なぜ龍が如くの”ばかみたい”はや耳に残るのか?*4」「エースコンバットの曲作りの凄さはリズムの刻み方にある。」「メトロイドのミュージックがメトロイドしている理由の分析。」といった具合に曲作りの特徴について楽譜付きでの詳しい解説を行っている。

本チャンネルの動画は字幕に関しては英語字幕も無いため必然的にリスニングが求められるため一見内容の把握に苦労するように見えるかもしれないが、動画の作り自体は図示方法が楽譜分析を中心に「どこに注目すればよいのか」の解説が丁寧に作られているので、視聴自体は問題ないはずだ。

>>Iconic Opening Intervals in Game Music
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>>How Rhythm Drives The Music Of Ace Combat
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>>Baka Mitai Actually Slaps Though
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>>Gusty Garden Galaxy's Perfect Melody
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>>Building a Battle Theme: Final Fantasy V's Battle at the Big Bridge
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>>How Melody Expresses Harmony in Cave Story
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New Frame Plus

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ビデオゲームにおけるアニメーションやキャラクター実装の方法を中心とした「ビデオゲームにおいてのキャラの魅せ方とはどういった物なのか」といった分析を行っているチャンネルがここ「New Frame Plus」である。

ビデオゲームにおける気持ち良さを実装するうえで必要な要素が「動きの付け方」「動きの魅せ方」なのだが、一口に「魅せる」といってもその方法は多岐にわたり制限もまた多い分野だ。一つ一つの動作に何処まで拘るのか、どこまで効率的な実装を行うか、どれだけ節約するか、どこまで破綻させないように抑え込むか。キャラアニメーションの実装方法はその作品の方向性によって確固たる回答は存在しない。

幾つかオススメを挙げるなら、解説動画のひとつである「ポケモンの戦闘アニメーションの進化の歴史」は特に面白いトピックのひとつだ。数百単位で増えていくポケモンの動きの表現をどう効率よく実装していくか、或いは技術の発展に際した表現手法の変化への対応はどのように行われてきたのかといった分析を最新作に至るまで掘り下げた分析を行っている。

また、効率的な魅せ方の手法の解説だと「逆転裁判の超効率アニメーション術」も必見の動画だ。ADVというジャンルもまたキャラ枚数の物量と明快な把握のしやすさが求められる分野であるが、リミテッドアニメーション的な手法でキャラの人となりを把握させ今起きている状況や発生している感情の伝達を極めてスマートに行っているあざやかさを知ることが出来る。

他にも、最近のアークシステムワークスが行っている「2D表現のような3Dはどのようにして実現されているのか」の解説動画は既に持ち合わせていた技術からどう発展させ実装に落とし込んだのかの流れをGDCのカンファや実際のゲームプレイ映像を交えた細かいビジュアル付きで判り易く解説しており、本チャンネルで最初に見る動画として強くお勧めしたい一本だ。

また現在進行形のシリーズとして「The 12 Principles of Animation in Games」と呼ばれるアニメーション作成の基本原則の動画解説版もあり。気持ちの良いビデオゲームアニメーションについての基礎を知ることが出来る大変良質な動画シリーズとなっているので強くお勧めしたい。

このようにビデオゲームにおける気持ち良さや快適さの正体をゲーム内のアニメーションまわりから分析しているのが本チャンネルなのでキャラの動きというものに興味がある人は必見である。そしてゲームのキャラモーションについて学ぶ際本チャンネルと同時の視聴を強くお勧めしたいのが、次に紹介するチャンネルだ。


>>The Animation of Guilty Gear Xrd & Dragon Ball FighterZ
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>>How Has Pokémon's Battle Animation Evolved?
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>>The Animation of Phoenix Wright
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>>Which Dark Souls Has the Best Parry Animation?
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>>SLOW IN & SLOW OUT - The 12 Principles of Animation in Games
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>>関連項目:Gamasutra - The 12 principles of animation in video games
www.gamasutra.com

Video Game Animation Study

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同じくビデオゲームにおけるアニメーションについて分析しているチャンネルである。

同時視聴がお勧めと言った通り通り題材が近いものがあるのだが、先のチャンネルが実装方法を中心とした分析の傾向が強いのに対して、本チャンネルではアニメーションそのものの踏み込んだ根幹の要素やエフェクト表現、背景描写やモーションつくりに焦点を当てた分析や解説を行っている動画傾向が強い。

前者がどのように構築されてるのかの実装方法の分析が主とするなら、こちらは調整寄りの解説や比較分析を主としており細かくコマ送りする等のアプローチにて分析することが多く、ゲームにおけるアニメーション作りの原理原則や基礎理論を知る上で本チャンネルの解説は極めて有難い作りとなっているのだ。

特に「The Five Fundamentals of Game Animation(ビデオゲームに必要な5つの基礎的事項)」は先に挙げた「New Frame Plus」は「The 12 Principles of Animation in Games」の補完シリーズとして成立しているので、こちらも単位互換枠として最初の「An Introduction」からの履修を強くお勧めしたい。

>>The Five Fundamentals of Game Animation: An Introduction
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>>The Importance of Keyframes / Run Cycles
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>>How Has Mario's Run Changed?
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>>How Link Swings a Sword // Video Game Animation Study
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Mix and Jam

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ゲームのプロトタイプ工程を経ることで、特徴的なシステムの実装方法を分析しているチャンネル。

ここまではゲームプレイにおける面白さといった構造的な話に焦点を当てたチャンネルを紹介してきたが、本チャンネルはより具体的な実装方法についてを解説しているものとなっている。その解説も、特徴としてゲームの根幹システムについて要素を分解しながら再現を行っており、分析分解再構築のプロセスが丁寧に作られている。

操作時の気持ち良さやプレイ感を実装方法から踏み込んだ把握を行う際、本チャンネルを視聴すると良いだろう。


>>Mario Kart's Drifting | Mix and Jam
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>>Star Fox's Rail Movement | Mix and Jam
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>>Final Fantasy XV's Warp Strike | Mix and Jam
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>>Metal Gear Rising's Blade Mode | Mix and Jam
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また本チャンネルの投稿主はUnity公式チャンネルでも主張して動画シリーズを作成しているのでそちらの視聴も強くお勧めだ*5

GDC

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言わずと知れた国際的ゲームデベロッパカンファレンスイベントの公式チャンネル。ここには過去に行われたゲーム開発に関わる様々なトピックの登壇の様子がふんだんに保存されている。

GDCに関しては登壇後に各メディアで有名どころが記事化して判りやすくまとめる事が主だが、それでも実際に一次ソースとして登壇風景を視聴するのはきわめて重要だ。本記事で紹介したチャンネルでも本イベントの登壇から引用を行っているというケースはとても多い。また、近年発売されたばかりのゲームについての技術解説や製作方針の振り返りも充実しているので細かくチェックするのが良いだろう。

加えて、ゲームの歴史を知る上で極めて貴重な資料が詰まった公式で閲覧できる媒体として本チャンネルでお勧めしたいのは、1999年の宮本茂ゲームデザインの基本理念についての基調講演や、2005年の故・岩田聡のルーツとこれからのビデオゲームの在り方についてのスピーチは是非とも見て欲しいと感じるカンファレンスとなっている。

基本的に字幕が実装されていないので日本語話者の登壇以外は内容を把握するのが難しいが大抵スピーチ向けに聞き取りやすい英語で話してくれてるので頑張って聞き取れば割とイケるので忍耐。

>>Breaking Conventions with The Legend of Zelda: Breath of the Wild
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>>Crafting A Tiny Open World: A Short Hike Postmortem
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>>Shigeru Miyamoto's 1999 GDC Keynote
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>>Satoru Iwata - Heart of a Gamer
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>>Magic: the Gathering: Twenty Years, Twenty Lessons Learned
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YouTubeチャンネルの括りから外れるが、本職のゲーム開発者の話について情報を仕入れるならGDCに加えてGamasutraもちょくちょく覗くのも良いだろう。

>>Gamasutra - The Art & Business of Making Games
www.gamasutra.com

動画ではないがここも見ておくとよい

今回紹介するにあたってゲームデザイン解説系において特に面白いと感じたチャンネルたちを余すことなく紹介した。

これらのチャンネルは動画毎の作り込みが練り込まれいる性質上、更新間隔が極めてゆったりであることが多いので登録と同時にアイコン横の通知ベルアイコンから「すべて」を選んでおくと取りこぼすことが少なくなるだろう。長く視聴するうえでこの設定はやっておくに越したことはない。

どの分野でもそうだが何か知識を得たいときは智者の肩を借り見識を広める足掛かりにするとよい。またYouTubeのオススメ提案機能はそれとなく適確なので、この手の解説動画を集中して視聴してると高確率で近い傾向のコラム動画を提案してくれる。

ゲームデザインとはビデオゲームにおいてその世界を構成する力学である、その力学を知ったうえで遊ぶビデオゲームはより格別なものとなるはずだ。貴方が新しいゲームをこれから遊ぶ際、あるいは既に持っているゲームを遊び直す際に新たな発見が出来るだろうと自信を持って言える。メタスコアやユーザーレビューに左右されずに「自分にとっての良いもの」を知る為の嗅覚を育てるのに一役買ってくれるはずだ。是非とも一度すべての動画チャンネルを視聴してみて欲しい。

今回の記事は特に骨が折れた、と言うのも、どのチャンネルもお勧めしたい動画が余りにも膨大過ぎてその全てを貼るとページが重くなるだろうし、チャンネルの特徴をどう説明するべきか単純で明快な言語化というのがどれも難しかった。この手の作業を普段そつなくこなしてる美術館の学芸員は改めておっそろしい存在だと感じた。

*1:ただし日本語から英語圏へのローカライズに際して視覚的感触が変わってしまっている例も幾つかあるので、そういった部分は念頭に置いて視聴して欲しい

*2:Grind=作業感

*3:作曲者のnoteにて詳しく解説もされてるのでそちらもお勧めだ。https://note.com/yasunori_nishiki/m/m794192564040

*4:コード遷移の仕方が日本製ゲームのBGMでよく見られる形式であるといった比較含めて大変興味深いコラムだった

*5:チャンネルTOPから飛ぶことが出来る